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Wishes come true once in a blue moon.

●とある魔法使いの追憶…
2022-06-03 Fri 00:02

あの二人との出会いは500年前。

エリン森と呼ばれていた深い森の中で、他の妖精や大陸から逃れてきた開拓者達と距離を取り、私はずっと一人で魔法を研究していた。

そんなある時、彼らが私の前に現れた。

見慣れない姿の彼らは、初対面のはずの私の姿を見ると、私の名を呼びとても安堵した様子で助けを求めてきた。

「ルディブリアムに行きたい」

私が転移魔法を使えば、それくらいは容易いこと。でも、私達は初対面。

少なくとも私には、こんな二人と会った記憶はなかった。



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正体不明の誰かに簡単に手を差し伸べる程、私は優しくない。

しかし…少し気になるものがあった。彼らが一つずつ身につけている、欠けた月を象った青いイヤリングだ。

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かなりの魔力が込められているようだけど、問題なのはその性質。

イヤリングから感じられる魔力が、何故だか私の魔力に似ていた。

これまでにも、宝飾品に魔力を込めて特殊なマジックアイテムを作製したことはあった。

けれど、目の前の彼らが持つものには見覚えがなかった。そして悔しいことに…恐らくこの魔力を込めた魔法使いは私より強力だ。

彼らを追い払うことは簡単だろうけど、どうしても気になったのも事実だった。

彼らは何者なのか。目的は何なのか。どうしてそんなものをもっているのか。その魔力の主は誰なのか。

何故私のことを知っているのか。

気になる。だから彼らに条件を提示した。



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あの頃、森は突如発生した毒の霧に蝕まれ続けていた。

独自調査の結果、闇の魔術の研究を行っている者が森に潜み、毒霧を作りだしていることを先日突き止めた。

私一人で対処するつもりだったけど、彼らに魔術師の討伐を依頼した。

もちろん、私の手にかかればこの程度は余裕。でも、この二人の実力を見極める良い判断材料になるだろうと思ったからだ。

結果は、予想以上に上々なもの。

二人は難なく魔術師……は既に森を去っており、遺していた毒を撒き散らすゴーレムを退治してみせた。おそらく徐々に毒霧は収まっていくだろう。

実力は問題なし。

一方で、彼らは私の疑問にはほとんど答えてくれなかった。答えたくても答えられないといった様子か。

でも、傍で彼らの様子をみていれば事情を察することができた。魔法や世界の仕組みをよく知る私だからこそだけど。

恐らく……彼らは時間旅行者だ。何らかの事情があり、この時代にやってきたとみえる。

時間旅行というものは非常に繊細で複雑なものだから、現地人との接触には注意するよう教えられていたとしても不思議はない。

……いきなり私の名前を呼んできたけど。

まぁきっと、何らかのトラブルで本来の目的地とは別の場所、もしくは時間帯、あるいはその両方に着地してしまい、困っていた……

そんな時に元の時代(未来だろう)で面識のある――彼らの態度から察するに、私と彼らはかなり親密な仲のようだ……信じられないけど――私をみつけて安堵と油断から思わずルールを破ってしまった。そんなところだろう。

……彼らに事件を解決させてしまったが、彼らがいなくとも解決できたことなので、歴史に影響はないだろう。

とにかく。そうだと仮定すれば、彼らは彼らなりに誠実な対応をしていたということだ。

精神性も問題なし。

時間旅行を悪用するような者たちではないだろう。彼らは信用するに足ると判断した。

結局、私は二人の意を酌み、何も知らない・気付いていないふりをして黙っておくことにした。

どうせいつかまた会うはずなのだから、その時に話してあげよう。

そうして約束通り、二人をルディブリアムへ転移させたのだった。



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500年後……私と彼は氷の谷で再開した。

今度は逆に、あちらが初対面の反応をみせた。当然だ。私はまだ、あれから彼に出会っていなかったのだから。

彼は突然空から現れた私に警戒していた。一方の私は、柄にもなく少しわくわくしていた。

なにせ、いつ会えるのだろうと待ちに待ち続けていた人物にようやく会えたのだ。

さて、どうやって警戒を解こう。あの時、去り際。彼らは何と言ってたかな……

あぁ、そうだ。何百歳も年上の私に対し、生意気にも「笑顔の方がかわいいよ」と。

私は誰にでも笑顔を振りまくような質ではないのだけど、彼らの知る、『今』の私はそうなのだ。

なら演じて見せよう。それに、笑顔の方が多少は警戒もほぐれるだろう。

そうして第一声。「お久しぶりですね~♪」

……こんな声出せるんだ、私。



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彼と話をした。彼の旅の目的、私の今の旅の目的。

どちらも当時、世界各地で生じていた異変の調査だ。

モンスターの狂暴化、時空間の歪み、異常気象、ルダスレイクの汚染……世界では、ここ数年で大小様々な異変が起きていた。

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彼は喜んでいた。異変は気のせいではなかったのだと。他にも調べている人がいたんだ、と。

私も内心で喜んだ。やはり私の判断は正しかった。彼は旅を楽しむ冒険者としての立場に留まらず、世界の為に戦う善の者。思わず頬が緩んだ。

そうして話すうちに彼の警戒は完全に溶けた。私の実力を認め、慕ってくれる。

初対面なのに久しぶりと言ったことにはずっと不思議そうな様子だったが、これは500年前の意趣返しだ。

それにどうやら、あの時のことは話すべきではない。彼は自身が時間旅行することになるとは微塵も思い至っていないようだった。

そう。時間旅行というものは繊細で複雑なのだ。知らない者に余計な事を言ってはいけない。



過去の彼にあって、今の彼にないものがある。

欠けた月を象った青いイヤリング。そして、傍らに立つ少女の姿。

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しばらく共に世界を廻りながら探りを入れてみたが、どちらも彼には心当たりがないようだ。

ずっと一人で旅を続けている、と彼は言った。

どういうことだろう……しばらく考え、一つの結論に至った。

きっとあのイヤリングは私が彼に贈ったのだ。ならば私の魔力に似ていて当然。500年経っているのだから実力も上で当然。単純なことだ。

では、どうしてそんなものを彼に贈ったのか。

500年前に調べさせてもらった時の記憶が正しいなら、あのイヤリングは召喚の石を素に作られていたはず。

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  召喚の石は、文字通り召喚関連の魔術に用いられる素材である。

  ドラゴンや鷹などの召喚獣を召喚する際に用いられていた。

  そして他には、シャドーパートナーというスキルにも用いられた。共に戦う影の分身を召喚するというわけだ。

なるほど、私は私の意図を推し図る。

そう。私は初めての友人のことが心配だったのだ。

500年の間で、人間達は過去の出来事をほとんど忘れてしまっているが、この世界は現代人が考えている以上に危険が多い。

それに、今世界で生じている異変が人為的なものであるなら、調査を続けることには更なる危険がつきまとうだろう。

でも、私がついていればきっと大丈夫だ。だって私は今やこの世界でトップクラスの力を持つ魔法使いなのだから……

しかし、私はこれから先もずっと彼の傍にいられるのだろうか?

彼はどうして過去に飛んだ?どうしてあの時、傍に私がいなかった?

……事情はわからない。でも、私はずっと傍にいられるとは限らないのだ。

ならば……私の代わりに彼を助け守る存在が必要だ。それでシャドーパートナーの登場というわけか。

問題はある。彼は戦士の道を究めんとしており、盗賊のスキルであるシャドーパートナーを扱うことはできない。

しかし、私なら可能にできる。いや、できたのだ。だって彼はパートナーを連れていたのだから。

  ……そう。彼女はきっと、シャドーパートナー。何故か実体を得てしまっただけの。

  私はあくまでも、シャドーパートナーというスキルを扱えるようにしただけのつもりだ。

  そもそも、さすがの私でも新たな命を魔法で生み出すことはできない。

そうして私は彼に、欠けた月を象った青いイヤリングを贈った。

  彼女は確かに実体をもっていた。今に至るまで全くそのような存在だと気付かなかったほどに、確かに。

  当時の私が未熟だったのか、それほどまでに確固たる存在として確立していたのか。

  今はまだわからない。だけど、きっとすぐにわかるだろう……

彼の拙い魔力でも使用できるように、たっぷりと私の魔力を込めて、いつでも分身を生み出せるように。

  何故そんなことが起きたのか。理由はわからない。

  もしかしたら、500年前に彼女の姿をみたことが影響しているのかもしれない。

  でもそんなこと関係ない。だって、何故だろう、彼に力を与えることが私の使命だと思ったから。

  ならそれでいい。タイムパラドックスなんて関係ない。

こうして、早速イヤリングに触れてスキルを試してみた彼の元に、ただ影の分身を生み出すつもりだった彼の元に、

この世界に、

彼女が、人の姿をもって顕現した。

これが世界の運命が分かれた瞬間だったとは、さすがの私も思い至らなかった。




※世界観設定は公式に沿ったものと捏造しまくっているものがごちゃ混ぜになっています。できる限り公式設定を活かしていますが、敢えて無視していることもあります
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