この世界に存在する冒険家は2種類に分けられる。
1つは、元々この世界の住民で、大半を占めるもの。
もう1つは、極少数の、別の世界からやってきたもの。
数百年前、この世界で大きな戦いが起こった。暗黒の魔法使いとの戦争だ。
圧倒的な力を持つ敵に対し、先頭に立って連合軍を率いた5人の英雄達がいた。
英雄達は死力を尽くし、なんとか暗黒の魔法使いの封印を果たした。
その英雄達の頭文字をとって、MAPLE……
本来、その一人は『E』ではなく『F』なのだが、『F』はこういったそうだ。
「みんなが忘れている一人がいる。その一人を足して、『E』だ」
そして、平和になった世界を象徴するものとして、もみじの木が大陸の外れの小さな島に植えられた。

もみじの木が立派に成長した頃から、時々この木の元にどこからともなく人が現れるようになった。
彼らは皆、多かれ少なかれ別の世界の記憶を持っている。
それは彼らが本来いた世界の記憶で、気が付いたらこの世界にいたというのだ。
様々な調査の末に、彼らは”完全に排除されたわけではない世界の脅威に対抗するための力として、この世界そのものが別世界から呼び寄せた勇者”という結論に至った。
実際、彼らのもつ知識は世界の発展に貢献し、多くの別世界出身の冒険者が名をあげたり、街や文明・技術の発展に貢献した。
ビクトリアアイランドのカニングシティーや地下鉄等が分かりやすい例だろう。
他の地域と比べ、異質と思える文化の多くはそうやってもたらされた。
そういった経緯があり、この木の周りには『初心者』を安全に、冒険家達の指導機関が存在するビクトリアアイランドまで送り届けるための支援を行うための町がつくられた。
そして、別世界が存在するのであれば、区別の為に自分達の世界に名前をつけようという流れになり、先の戦いの英雄達の名をとってこの世界をメイプルワールドと呼ぶようになった。

俺には元の世界の記憶がなかった。しかしこの木の元に現れた内の一人だ。
俺が持っていた最も古い記憶は、真っ暗な闇の中、鎖が絡んだ扉の先から溢れる光。
そして、多くの人達の声……祈り。
第一次暗黒対戦後、俺は他の仲間達とともにエリンの森へやってきた。
戦禍に見舞われたオシリア大陸から、新天地を求めて避難してきた妖精族と人間の一団の一人として。

妖精にはいくつかの種類がある。
エルフ。長命で、人間より整った外見をしている翼のない種族だ。元々エリン森の近くに街を作り暮らしており、外に出ることは珍しいものの、人間とは友好的だ。
シルフ。エリン森に住んでいる、小さな半透明の翼をもつ小柄で比較的短命な種族だ。彼女らはあまり友好的ではない。
ニンフ。オルビスに住む、天使のような外見の長命な種族だ。彼女らはシルフよりは友好的といえるだろう。
シルフに似た種族にフェアリーがいるが、これは蝶のような羽をもっている。敵対的な種族だ。
俺は人間とエルフの混血で、ハーフエルフに分類される。
避難民の指導者達とともに長い年月をかけてビクトリアアイランドを整備し、冒険家を導く礎も完成した後、俺は平和なようにみえて様々な異変が生じ始めている世界を旅した。
各地で発見される闇の勢力の残滓を処理したり、様々な問題解決にも尽力したことで、現代において第一級の冒険家として認知されることとなった。
そしてその功績が認められ、時が過ぎ復活を果たした暗黒の魔法使いに対抗する連合軍の中心人物として抜擢された。
俺は負けた。
暗黒の魔法使いの圧倒的な力の前に、成す術なく敗れた。
他の英雄達や別世界の勇者達とも力を合わせたが、彼には手も足もでなかった。
暗黒の魔法使いは、因果律の束を自ら壊しては繋ぎ、無数の未来の束を創造しては除去し、そうやって、いくつもの運命が枝分かれした未来そのものを、掌の中に収めていた。
我々は、彼が決めた未来、創世の道の上に導かれていた。
……勝てない。
連合軍は破れ、このままでは世界は消滅してしまう。
絶望に包まれる中、メイプルワールドの女神の声が響いた。
「あなたを過去に戻します。どうか、その先の世界を救ってください」
女神の力が、時間の超越者の権能が、龍の英雄の魔法が、病弱な女王の祈りが、そして戦場の勇者達の願いが俺の元に集まり、記憶と力を維持した状態での時間遡行が始まった。

だが……暗黒の魔法使いは自身の真の脅威となるものを見逃しはしなかった。
遡行する俺に彼の概念の鎖が伸び、捕らえ、逃がさんとする。
抵抗したが、遡行が終わった頃にはもう、力も記憶もほとんど失いかけていた。
目の前にあるのは光の扉。逃がすまいと鎖が絡みつき、閉ざそうとしている。
逃げねば……急いで向こうへ……

身体に染みついた技術はそう簡単に抜けないらしい。
力も記憶も失ってしまったが、低級の冒険家の時代から、他とは一線を画していた。
それに、1周目と明らかに違うことがあった。俺は旅の途中で多くの仲間と出会った。
他の魔法使いを圧倒する、様々な分野に精通しているシルフ。
人間でありながら、獣の力をその身に宿された娘。
銃を好む風変りなニンフ。
そして、分身である■■■■■。
仲間と共に世界を旅し、各地で発見される闇の勢力の残滓を処理したり、様々な問題解決にも尽力した。
その結果、未来の記憶がないままに、2周目の俺も名のある冒険家となり、連合のエースとして期待されることとなった。
アーケインリバーで、俺は俺そっくりな青年から、忘れていた記憶の一部と使命を与えられた。
彼は、俺がこの時間軸――暗黒の魔法使いが復活の兆しを見せる数年前――に戻されたときに本来存在していた俺自身だ。
暗黒の魔法使いから逃げる際、奪われかけた力と記憶を女神によってなんとか彼に繋ぎ止められた。
これならば、遡行してきた俺と本来の俺が出会い、同化することで力と記憶を取り戻すことができる……
しかし女神にとって誤算だったのは、未来の記憶が流れ込んだ衝撃と、暗黒の魔法使いの攻撃の波及を受けた彼が倒れ、記憶喪失となったこと。
俺が本格的に世界を旅し始めた頃で、俺を知る/覚えている者はほとんどいなくなっており、時間の神殿で倒れていた俺が何者なのか、不明なままとなってしまった。
これにより、同化は遅れ、また完全な同化を果たすことができなかった。
しかし……不完全でも、俺は自分が何者なのかを知ることができた。
消滅する彼を見送りながら、戦いへの決意を固める。

俺がすべき正しい選択とは。
あの時、俺は■■■/■■■■を楽にしてやるつもりだった。
しかし
■■■■■は違った。全て助けたい、と。
俺は直感を信じた。これこそが、運命を変える選択なのだと。
俺の選択こそが敗北の道。
ならば、勝つための選択は……

暗黒の魔法使いは強大なアーケインフォースで守られていた。
アーケインリバーの最奥で莫大なエルダを取り込み、その姿と力はもはや神と称するに相応しいものとなっていた。

俺一人の力ではこの守りを突破できなかった。
他の誰と力を合わせてもそうだ。
アーケインフォースは、他者と共有して強化できる力ではないのだ。
しかし、
■■■■■ならば。彼女は俺の分身。見た目は全く違っても、彼女は俺自身なのだ。
彼女となら、奴の守りを突破することができる。
正しい選択をするため。
そして神を堕とすため。
彼女は、そのためにこの世界に呼び出されたのだ。
1周目の俺が果たせなかった使命を、今ここで。
今こそ運命を切り拓いてみせる――
※世界観設定は公式に沿ったものと捏造しまくっているものがごちゃ混ぜになっています。できる限り公式設定を活かしていますが、敢えて無視していることもあります